巴里の憂鬱・終 章
ソフィーの解放




パリ警察が動きだしていた。戦争が終わると、とかく社会主義運動が活発化し、これに立ち向かう国粋主義者が多く現れるものだ。政治運動の取締りに日々追われていた警察が、ここに来てやっと、民衆の苦情にも耳を傾けるようになっていた。
しかし、その民衆が子供なら話は別だ。警察も子供相手に取り合っていると身がもたないからだ。

その頃、パリ警察の管轄にあるネテル交番所に匿名の手紙が寄せられていた。
切手は貼っていないし、まとまりのない拙い文章だった。筆跡から判断しても子供であることは間違いなかった。

最初はいたずらとみなされたが、手紙の内容をよく読むと、自分の姉を心配する幼い叫びが込められていた。

数人の捜査員がその場所に実地調査に出向いた。

 

19458月、蒸し暑い夏の日。 「しつけの広場」は摘発され、愚かな母親たちは少女虐待の罪で現行犯逮捕された。

 

ソフィ−が帰宅すると、ミシェルはベッドで眠っていた。

ソフィ−はミシェルの頬に唇を寄せると、幼い肌に優しく、そっとキスをした。


「有難う、ミシェル。もうこれでお尻を痛くされなくて済むんだわ、きっと」


ソフィ−は「しつけの広場」でせっかんされたお尻を痛そうに両手でさすっていた。
その仕草は、まだ子供っぽくかわいかったが、ミシェルの寝顔を見つめる表情はすっかり大人になっていた。

(明日からふたりで力を合わせて生きていきましょう。これからもよろしくね、ミシェル)


二十歳を目前にしていたソフィ−は、ミシェルを弟というより、すでにわが子として見つめているのだった。


ちょうどその頃、アメリカ軍によって、広島と長崎に原子爆弾が投下された。

そして、1939年から足掛け、七年に渡って繰り広げられた悲惨な第二次世界大戦が終わりを告げた。

 

                                       【完】





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