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第四章 ・ アンの抗議



その頃、トーバート家ではある事態が進行していた。
ジェシカが罰を受けた日の夜のことだった。夕食の席で椅子に座りにくそうにしている娘の様子を不審に思った母親のアンが、娘の尻をまくりあげて調べたところ、お尻にアザができていたのである。アンが娘を問い詰めたところ、遅刻の罰で校長からパドルでお尻を打たれたと白状したのだ。
アンは激怒した。そしてこの件で連日、夫とのやり取りが続いていた。

「 あなた、このままで済ませるおつもり? わたしは、なにがなんでも抗議に行くわよ」

「 また、その話かい? 俺は思うんだが、学校内で起きたことは学校の規則に任せておけ。変に抗議するとジェシカの立場もある」

「 まったく情けないわね。わたし、もう一人で行きますわ。あなたが反対しようとも」

「 わかったよ、もうお前に任せる。ただし、さっきも言ったように娘の立場も考慮に入れて話をしろ。俺が言いたいのはそれだけだ」

夫のマイケルは、妻に根負けして、しぶしぶ同意した。

このあと、アンの行動は素早かった。
まず、教育委員会に行って自分の意見書を提出した。これに同意が得られれば、教育委員会の推薦状を添えて「保護者の意見書」として、学校に乗り込む計画だったのである。アンが教育委員会に提唱した内容は次の2項目だった。

1.パドルの使用禁止。平手かベルト打ちに限定すること
2.13歳以上の娘をお仕置きするときは、罰の執行者および立会人は男性であってはならない(女性限定)

さらに「この次、娘が罰を受ける事態になった場合、自ら校長室に赴き、母親の手で娘を罰し、模範を示したい」
という内容が加えられていた。

この後、アンの予想通りの展開となった。もともと教育委員会には左派系が多く、トントン拍子に推薦状が発行されたのである。

数日後。アンは娘が通うメスクィート女学院にアポなしで乗り込んで行った。
玄関で対応したオースティン教頭は、あわてて校長室に駆け込んだ。

「 校長! ダン校長! 大変です。ジェシカの母親がお仕置きの件で校長と面談したいと乗り込んでまいりました」

「 ジェーン、少しは落ち着かんかね。 何をそんなに慌てておる? わしたちは規則通りに罰を与えただけだよ」

「 どういたします? 追い返しますか? それとも・・

「 わしは、あの美少女を生んだ母親がどんな女か見てみたい。美人ならせっかんしてやる」

「 校長、そんなご冗談をおっしゃっている場合ではございません。もう、すぐそこに来ております」

「 わかった。では、通したまえ。それと君も同席してくれんか? ただ座って見ているだけでよい」

「 かしこまりました。では、お通しいたします」


ドアが開き、ジェシカの母親・アンが校長室に入室した。


「 初めまして。わたしはジェシカの母親で、アン・トーバートと申します。先日は娘が大変、お世話になりました」

「 わたしは、校長のダンです。どうぞお坐りください。ところで今日はどのようなご用件でお越しでございますか?」

「 実は、あなたのお仕置きで娘のお尻にアザができていることがわかりました。まず最初に申し上げておきますが、わたしは決して体罰反対論者ではありません。ただ、罰の与え方について改善を図って頂きたく、ここにまいった次第です」

アンは、教育委員会の推薦状と保護者の意見書をダンの前に差し出した。


「 この文書を読んで頂ければわかると思いますが、そこに書いていないお話もありますので、少しの間、わたしから喋らせて頂けませんか?」

「 わかりましたよ。では、どうぞ」

「 何故、子供のお尻をたたくのかご存知ですか? それは最も肉附きが良く、子供に怪我を負わせないためです。それなのにアザを作ってしまった。これはもう素人の所業としか言いようがありません。お仕置きのときには、必ずお尻を裸にすることが絶対条件です。それは衣服や下着の上から折檻しますと、尻の具合がわからないからです」

「 あなたのおっしゃることは一理ある」

「 それとパドルは古の珍品、過去の遺物です。肉体を傷つけないためにはパドルの使用を禁止し、その代品としてベルトか平手打ちを強く推奨いたします」

「 なるほど。大変、勉強になります」

「 あともうひとつ。小さな子供ならともかく、成長した若い娘をお仕置きするときには、罰の執行者は女性限定にするべきです。立会いにも男性が同席することは強く反対いたします。もうそんな時代ではございません」

「 わ、わしは校長だよ! 罰の執行に責任を持たねばならんのだ。あなたは少し断定的にものを言い過ぎておる」

「 たとえ校長といえども、男性は男性です。まだ目を通しておられないようですが、教育委員会の推薦状も添付いたしております」

「 教育委員会の推薦状やあなたのご意見など何の効力も持たん。一応、参考にはするが、あくまで規定が最優先だ。わしが決める」

「 一度、前向きにご検討ください。それと今度、もし娘が罰を受けるときには執行する前にご連絡ください。わたしがここで娘を折檻いたします。それを隣におられる教頭先生にご覧いただいて、女生徒の罰し方を根本的に改善して頂きたいのです」

「 最後の意見には同意する。とにかく、それから検討しよう。では、オースティン、そういうことだから頼むよ」

「 かしこまりました。では、アン・トーバート様、これでよろしいでしょうか?」

「 構いません。校長の英断を期待しております。それと、あとひとつだけ。わたしは連邦裁判所に提訴いたします。いえ、なにもダン校長を訴えるものではありません。娘の通う学校です。風評を貶めるつもりはございません。あくまで全国私立高校連盟を相手に、この国の因習を取り払うべく、全国展開することが目的です」

「 好きになさるが良い。オースティン、ご婦人がお帰りだ。お見送りしなさい」

「 いいえ。お見送りは結構でございます」

こうして、アンはすまし顔のまま、毅然たる態度で退室した。

アンは不満だった。本当はもっと怒りをぶちまけたかったのだ。しかし、夫から忠告を受けていた「娘の立場」に配慮し、言いたいことの半分しか言えなかったのである。しかし、決意を固持したアンは、そのまま連邦裁判所に足を運び、全国私立高校連盟を相手に提訴したのである。その内容は、教育委員会に提出した自分の意見書とほぼ同じものだった。即ち、

1.パドルおよびケインの使用禁止。平手もしくはベルト打ちに限定すること
2.13歳以上の娘をお仕置きするときは、罰の執行者および立会人は男性であってはならない(女性限定)

とりわけ、2のほうはアンが最も重視していた問題だった。
裁判は長期化が予想されるのと、アン自身も多忙な日々を送っていたため、弁護士に依頼して進めてもらうことにした。

一方、校長室ではダンとオースティンが密談を交わしていた。


「 ジェーン、これは面白くなってきたぞ。ジェシカの裸の尻を拝めるのなら、母親の提案はわしの物を奮いたたせるだけじゃよ」

「 まったくですわ。これでわたしがジェシカをお仕置きし、校長には覗き穴からご鑑賞いただくということで」

「 ところで最近、ジェシカはどうしておる?」

「 当校に来るまではスポーツをしていたようですが、今は演劇部に所属して部活動にのめり込んでおります」

「 演劇部かね? これは意外だ。バレーボールやテニスなど、もっとあの尻とか脚線美を楽しめる部活に変えさせれんかね?」

「 それはさすがに出来ませんわ。何しろ、ハリウッド女優を目指したいとか。まだまだ夢見る少女なんですよ」

「 なるほどな。いや、しかしだ。あの子なら夢が叶わんとも限らん。あの器量とスタイルだからな」

「 ところで校長、あの最後に言っていた連邦裁判所の話ですが、あれは心配しなくてもよろしいでしょうか?」

「 まったく心配はいらんよ。どうせ嚇しのつもりだ」

「 そうですわね。それを聞いて安心いたしました」


それから約1ヶ月後のこと。

ジェシカはカンニングのかどで校長室に呼び出される羽目になった。
Discipline の単語を手のひらにマジックで書いていたものを事もあろうに、国語担当のオースティン教頭に見つかってしまったのである。

校長は早速、母親のアンに電話をかけた。

「 もしもし、校長のダンです。娘さんが罰を受けることになりました。お約束通り、先にご連絡しました」

校長は罰の理由を詳細に説明し、ジェシカが非を認めていることも告げた。


「 わかりました。まったくお恥ずかしい限りです。今からそちらに向かいます。15分程、お待ちください。2時前には到着いたします」

「 了解いたしました。事故のなきよう、ゆっくりお越しください」


ダンとオースティンは皮肉な笑みを浮かべて、アン・トーバートの到着を待ち構えていた。

一方、ジェシカはひたすら後悔に苛まれ、これから起こりうる事態に不安でたまらなかった。



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