Great Principal
第七章 ・ Beauty Queen |
ジェシカがハーツホーン高校に編入学したのは、3年生になった秋の新学期からであった。
この高校は男女共学で、生徒の割合は男子が6割、女子が4割という性別構成だった。美しいジェシカはたちまち、男子生徒のマドンナとなり、連日のように各クラブの広告班から入部の勧誘が殺到した。しかし、ハリウッドへの夢を追い続けるジェシカは、何のためらいもなく演劇部に入部した。
しかし、それだけではおさまらず、クラブのイメージガールとして、せめて籍だけでも置いてほしいと、連日のように勧誘が続いたのである。
結局、ジェシカはフットボールチームのイメージガールに採用された。
このチームのキャプテンをつとめているトーマスは、校内はもとよりこの地区の界隈でも有名なほど超美少年だった。しかもチームメンバーにみられるような「がたい」のいい、いかつい体格ではなく、また性格も魅力的で女生徒の憧れの的だった。トーマスとジェシカのふたりは出会った瞬間からお互いが一目惚れだった。そのためジェシカも籍を置くことに何の躊躇もなかったのである。
11月になり、秋の文化祭の季節となった。
この季節になると、ハーツホーン高校では、恒例の「ビューティー・クィーン・コンテスト」が開催されるのだった。
まだ編入学して2ヶ月しか経っていないジェシカにとって、コンテストへの応募はまったく考えられなかった。しかし、所属するフットボールチームやそれ以外の多くの男子生徒、そして女生徒からも応募を促され、ついにはジェシカ本人の同意もないまま、友人が本人の名で応募したのだった。
審査は一次のトークに始まり、二次の水着審査へと進むのだが、二次審査でジェシカの水着姿に会場は、あまりの美しさでどよめいた。
例年では、卒業間近の最上級生に忖度して、4年生からクィーンが選ばれるのだが、今年は満場一致でジェシカがクィーンに輝いた。また外野からもこれに意を唱える者はまったくおらず、全員が納得せざるを得ないほどの実力ぶりだった。
一方、トーマスとジェシカはすっかり恋人同士の関係になった。ふたりが校内を並んで歩いているだけで、まるでハリウッドスターが出演している映画のシーンのようだった。生徒の中に嫉妬を覚えるような者もいなかった。このふたりなら自分の出番はないと思わせるほど、完璧なペアだった。ジェシカは、これまでには想像もつかなかったほど幸せな青春を謳歌していた。
ある事件が起きたのは、ジェシカが編入学をしてから3ヶ月後のことだった。
ハーツホーンスタジアムで行われたある強豪チームとのフットボール戦で、試合が開始される直前の出来事だった。
キャプテンのトーマスとイメージガールのジェシカがグラウンドに並んで立っていたとき、観客席から「キスしろ」コールが沸き起こったのである。そのコールは時間とともに大きくなり、やがて相手チームの応援団からも同じ「キスしろ」コールが沸き起こったのだ。ふたりは困り果てたところ、このまま何もせずに終わらせるわけにもいかないと相談し、グラウンドの真ん中で抱き合い、唇を重ねあったのである。
若者たちにとって、この光景は何とも形容しがたいほど美しいシーンとなった。
とりわけ、相手チームの選手や応援団は、トーマスの美男ぶりは知っていたものの、美少女のジェシカをみるのは初めてのことだった。
その青春が香るばかりの美しい光景にすっかり酔いしれたのだ。
双方の観客席から熱い拍手喝采が沸き起こった。
このシーンは一部のマスコミに写真が掲載され、いろいろと物議を醸しだした。
また、当然のことながら学校当局にも情報が入り、誰もが想像もしなかった事態に急展開していったのである。
ハーツホーン高校の規則では、第77条「生徒間のキスは、これを固く禁ずる」と定められていた。
さらに「規則をおかした生徒には、校長または校長が委任した教員により、パドルによるお尻打ちの罰を行う」と定められていたのだ。
ここで声をあげたのは、学年主任の女教師・クララであった。彼女は校長のハロルドに「規則どおり、ふたりの生徒にお仕置きをするべきだ」と主張した。彼女の父親は、ハーツホーン高校の前校長であり、ハロルドのかつての上司でもあった。従ってハロルドはクララに対して、何かにつけて遠慮がちだった。しかし、今回の彼女の主張は決して間違ってはおらず、ハロルドは規則を守るためにふたりのお仕置きは止むを得ないと判断したのだ。
「 ハロルド校長、罰を効果的にするためには、ふたりを同時にお仕置きするのが望ましいと考えます、是非、わたしに執行権をお与えください」
「 うむ。よかろう。では、わたしがトーマスを、君がジェシカを罰するということで異論はないかね?」
「 いえ。わたしはその逆のほうが効果的だと察します。すなわち校長がジェシカを、わたしがトーマスを罰します」
「 よし。ではそれでいこう。ふたりを明日の午後にでも校長室に呼び出したまえ」
「 かしこまりました」
翌日の午後。トーマスとジェシカのふたりは校長室に呼び出された。
そして、クララが罪状を読み上げたあと、ハロルド校長によって、パドルによるお尻打ちの罰が若いカップルに宣告された。
まず、テーブルに向かって左側にジェシカ、右側にトーマスが立たされた。その後、ふたりはテーブルの上に両肘を揃えてのせるように指示された。さらに身体をくの字にすると、ジェシカの成熟した尻がエロチックに後方に突き出され、本来なら下心のないノーマルな校長の欲情をも昂ぶらせた。それから、右利きの校長がジェシカの左側に立って、右手でパドルを握りしめた。そして左利きのクララはトーマスの右側に立ち、左手にパドルを持った。
そして、校長はジェシカのお尻をたたいて、クララはトーマスのお尻をたたき、ほぼ同時進行にお仕置きが開始されたのだった。
パン! パン! パパンン! パン! パパンン!
打擲音に多少のズレはあるものの、クララの主張する「効果的なお仕置き」がここに実現した。
パン! パン! パパンン! パン! パパンン!
人も羨む美少年と美少女は、お尻を打たれている間、可憐にもテーブルの上でお互いの手を握りあっていた。ジェシカの右手とトーマスの左手は片時も離れることなく、しっかりと指と指を重ねあっていたのである。それを見て嫉妬心を燃やしたクララはますます美少年の尻を強く殴打した。
こうして、それぞれ10打のパドル打ちを受けて、お仕置きが終わった。
このニュースはたちまち校内を駆け巡った。
生徒たちの反応は様々だったが、義憤にかられた怒りの声がほとんどだった。
「 あの行かず後家の変態クララめ! またまた己の性癖を暴露しやがったな!」
「 こんなサディスティックな罰ってある? あんな変態おばさん、その辺で死ねばいいのよ!」
しかし、その一方で
「 あのふたり、これからキスをするたびに唇よりお尻を意識するんじゃないの?」
「 俺もそう思うぜ。そこにはもはやロマンチックなムードもクソもなく、まぶたを閉じればおケツだろ」
生徒たちは、美しきカップルに対してこれまでとは違った、ちょっぴり軽蔑を交ぜた憐れみを感じるのだった。
この事実は、あるタブロイド紙に掲載された。スタジアムでのキスシーンは写真で掲載され、お仕置きのシーンはイラストで掲載されたのである。
しかし、校長室での4人の立ち位置や手を握りあっていたことなど、現実に起こった通りに描かれており、クララのお喋りが原因に間違いなかった。
母親のアンがこの事実を知ったのは、数週間後の美容院の待合室だった。
そこに置かれていたタブロイド紙の記事を読んだアンは、帰宅するやいなや、ジェシカを問い詰めた。
「 ジェシカ。これはほんとうのこと? あなたは規則を知っていたの?」
「 ほんとうのことよ。あぁ~御免なさいママ、規則も知っていたわ。テキサスで痛い目にあったから。ちゃんと読んでいたわ」
「 ・・・・・」
「 お願い、ママ。もう学校には抗議に行かないで」
「 行かないわよ。誰が行くもんですか!」
アンは素っ気なく答えた。
連邦裁判所の判決が出たあとで学校へ抗議に出向くなど、そんな行動はまったく無意味だった。
さらに転校しても、また罰を受けるジェシカにかなり苛立っていた。アンはこの規則が、まったく時代錯誤で古臭い因習だと思いつつも、そのルールを知っていながら罰を受けた自分の娘に憤っていたのである。
娘のジェシカはたしかに美しく成長した。しかし、それは外見だけで中身のほうは、まだほんの子供のままだとアンは感じていた。
朝寝坊(目覚まし時計はママ)、門限破り、家事も手伝わない、返事もしない、すべて親任せ。若い子供たちによくみられる特徴で、まだ成長過程といえばそれまでだが、稀に無断外泊による朝帰りもあったのだ。だから学校で起きたこの事件だけでなく、常日頃から何とか手を打たねばならないと焦燥していたのである。
アンはその時、エドウィン・ダンが校長室で語っていた、あの台詞を想い出していた。
『 罰を受ける子供もいれば、まったく罰を受けないで済む子供もいるのだ。では、この違いは一体何だと思うかね?』
『 わしは、やはり家庭のしつけだと思うのだよ。あなたは娘さんに自ら罰を与えて、模範を示したいとおっしゃっていたが、実は日々のご多忙さの余り、娘さんのしつけを等閑にしてきたのではないかね?』
『 これは罰の与え方の議論をする以前の話をしておるのだ。つまりしつけが出来ておれば、こんな議論は不要だと言っておるのだよ』
あのときの会話は鮮明に記憶していた。
席を立って逃げるように校長室から退室したことも。
そして今更ながら、ダンの語った言葉の重みが強く圧しかかってきたのである。
あの日、校長室でジェシカをお仕置きしたのも実は3年ぶりだった。
娘が12歳までは、親らしく躾けてきたつもりだが、家計が厳しくなり、働きに出たことや娘の肉体の急激な成長により、しつけを怠っていたのだ。ダンの言葉はまさに正鵠を射ていたのである。
ここで母親のアンは、ある決意を固めるのだった。
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