巴里の憂鬱・第三章
おしおきの種蒔き




階下では、まだミシェルの泣き声とお尻の楽器が鳴り響いていた。よほど酷くやられているに違いない。
ソフィ−は体をねじるとお尻の膨らみに手をあててみた。


「 あぁ、今日もいけないわたしのために痛い思いをさせてごめんなさい。でもあなたさえ居なければ、わたしだってこんなにつらい思いをしなくて済むのよ 」

ソフィ−は自分のお尻に話しかけていた。しかし、そんな暢気なことを言っている場合ではなかった。今、階段を上がってくる継母の足音が聞こえたのだ。ソフィ−は全身を緊張させた。そして、ドアが開かれる。


「 ソフィ−、成績通知表をお見せなさい。おまえね、自分から持ってこないとだめじゃないか 」

「 ああ、ごめんなさい、お母さま。わたし、恐くて見せれなかったんです。だ、だって、とっても下がってしまったんです」

「 つべこべ言わずに早くお見せ! お勉強を怠けた子はお尻だからね!」

ソフィ−は震える手で成績表を継母に差し出した。それを見た継母の顔が恐ろしいほどに険しく変化していく。

「 これは一体、どういうことなんだ! わたしがおまえの教育にどれだけ経費をかけているか、わかっているのかい!えさ代は高くつくんだよ。これじゃ草ばかり喰ってるのろまな競走馬と同じじゃないか。そんな馬でもね、速く走らせるために騎手から尻を鞭打たれるんだよ」

「・・・・・・・」

「すぐにでもお仕置きしてやりたいが・・・おまえは今、生理中だったね。お仕置きは日延べしてあげるよ。でも絶対忘れてはならないよ。こんな成績をとってきて、ただじゃ済まないんだからね」

そう言って継母は背中を向けると部屋を出て行った。

ソフィ−はホッとした。しかし、お仕置きの日延べは彼女が最も嫌うつらい仕打ちだった。
なぜなら、お仕置きが実行されるまでの間、常に精神的に苦しんでいなければならないからだ。

 
実は継母にはひとつの思惑があった。それはソフィ−のお仕置きも最近になって、いささかマンネリを感じていたのだ。そこで思い切った環境の変化をいろいろと模索していたのである。具体的な名案が浮かんだわけではない。ただ、意地悪な継母はこの美しい娘をもっと辱め、そしてもっと屈辱的な仕打ちを与えてやろうと考えていたのである。苦痛と屈辱に苛まれたソフィ−の表情がどんなに美しく、魅力的であるかをよく知っていたからだ。

一方、ソフィ−はそんな策略にはまっていくなど知る由もなかった。そもそも継母にこのような隠された性癖があること自体、まったく考えにも及ばなかったのである。それは同性であること。そして結婚して子供まで設けている事実によって、あくまで「ノ−マルな母親」を信じて疑わなかったのである。ただ、意地悪で、異常に厳格で、自分はまだ子供扱いにされていると思っていただけなのだ。

階下では継母が、不吉な笑みを浮かべながら嗜虐的な想像に耽っていた。

(そうだ。幼いミシェルの前でお仕置きしてやろう。いや、それともふたり同時にお仕置きしてやるのはどうか、四つん這いにさせて、小さなお尻と大きなお尻を並べて、同じ扱いで罰してやるのだ。きっとあの子は恥辱に苛まれるに違いない。ああ・・そのときのあの子の顔ときたら・・)

今までなら、弟の前で、年の離れた姉をお仕置きするなんて考えられなかったことだ。継母は想像しただけで身体が熱くなってきた。成績が下がったという理由で、お仕置きの予約が取れただけでもすっかりご機嫌だった。なぜなら、ここ一ヶ月以上も、パンティを下ろす口実が見つからず、ソフィ−のお尻をたたいていないからだ。

(しかし、なかなか名案は思い浮かばないね。まあ、とにかくミシェルは利用できそうだわ)

 

チャンスは意外にも早く訪れた。夏休みで暇を持て余していたミシェルが姉に何かといたずらを仕掛けていたのだ。
今も二階では派手に姉弟喧嘩をやっている。


「 ミシェル、返してよ。それはお姉さんの大切なものなのよ。すぐに返さないと承知しないから」

おませなミシェルはアルバ−トとのツ−ショット写真を手にして、姉を冷やかしていたのだ。机の引出しに隠していたはずが、いつの間にか、おチビに見つけられていた。

「 へえ〜。お姉さん、この人と結婚するの。ママは厳しいから、きっと叱られちゃうよ」

「 ミシェル! もういい加減にして。そんないたずらするんだったら、ひっつかまえて、お尻をぶってやるわよ」

「 へへ。女の癖に、やれるもんならやってみな。ボクは素早いんだぜ」

とても、八歳の子供が口にするような言葉ではなかった。ソフィ−は怒りのあまり、ベッドにあった枕を右手につかむと、憎らしいおチビをめがけて、力一杯に投げつけた。すると、俊敏な小僧は咄嗟に身をかわしてよけたので、枕は鋭い勢いで窓ガラスに直撃した。


パ−ン、パリ−ン!リ−ン!


事態は最悪の結果となった。ソフィ−は驚きのあまり、ただ呆然と立ちつくしていた。そしてミシェルも。
そのとき、ドタドタといかつい足音で母親が階段を駆け上がってきた。そして、荒々しく、ドアが開かれた。


「 おまえたち、一体、何してんだ! ガラスを割ったのは、どっちなんだい?」

「 はい、ごめんなさい、お母さま。わたしです」

首をうなだれていたソフィ−が消え入るような声で謝った。


「 おまえはこの粗相がどれだけ恥ずかしい事かわかってるのかい! まったく十八にもなって、こんなチビと喧嘩するなんて。そのうえ、高価なガラスまで割ったんだ。ソフィ−! 覚悟はできてるんだろうね」

「 ・・・はい、お母さま」

「 ミシェル! おまえが手に持っているものは何だい? お見せ!」

ミシェルは写真をうしろに隠そうとしたが、母親に強引に腕をねじ上げられ、それを奪い取られた。
ソフィ−の顔が更に青ざめた。もう何もかも万事休すだ。

「 何だい、この写真は? ソフィ−! この青年は一体、誰なの?」

「 は、はい、それはクラスメ−トのお友だちで・・

「 お黙り! クラスメ−トのお友だちだと? ふざけるんじゃないよ! だったらどうしてこんなに頬を寄せあってるんだい?」

「 ・・・・・・」

「 おまえは、大人になるまで男と付き合ってはいけないと、あれほど言い聞かせていたのに、それがわからないのかい! 親の言うことを聞かない子供がどんなやり方で罰せられるか、何だったらここで言わせてあげようか?」

「 ああ、許して、お母さま! わ、わたしの不注意でした。ごめんなさ〜い」


ソフィ−は哀れにも幼い弟の前で泣き出した。継母はソフィ−に近寄ると、今まで見たことのない顔で彼女を睨みつけた。それは明らかに嫉妬だった。母親にとってガラスを割ったことなど、子供だましの出来事で、どうでもよかったのだ。それよりも、このハンサムな青年とのツ−ショットが許せなかったのだ。幸いアルバ−トが軍服を着ていなかったので、ナチスであることはばれずに済んだ。しかし、これからどんな厳しい追求があるかわからない。


「 ミシェル! おまえは自分の部屋に行ってらっしゃい。そして部屋を綺麗に片付けるんだ。漫画ばかり散らかして、ちっとも勉強していないじゃないか。改めないとおまえもお仕置きだからね」

「 はい、ママ」

ミシェルは残された姉を不安そうに見やりながら、階段を下りて行った。

「おまえも」という言葉はソフィ−の胸に鋭く突き刺さった。まるで幼い弟に、これから姉がお仕置きされることを暴露しているような表現だ。しかし、今はそんなことを考えている事態ではなかった。


「 ソフィ−! この青年とは別れるのかい、どうなんだい?」

「 は、はい。実は・・彼は戦死したんです。だから、せめてもの慰みとして、持ってただけなんです」

「 ふう〜ん、そうかい、それはお気の毒なこと。だけど暫くの間、わたしがこれを預かるからね。・・・何だい、その顔は。心配しなくても捨てやしないよ」

「 ・・・・・・ 」

「 さて、おまえのお仕置きだが、罰の理由はこれで三つになったんだよ。一つ目は成績、二つ目はガラス、そして三つ目は、はしたなくもこの若者と淫らな行為をしたことだ。いいかい」

ソフィ−は震える唇で涙ながらに抗議した。


「 お母さま、わ、わたし、決して淫らな行為なんかしていません」


ピシ−! ピシ−!


突然、柔らかい左右の頬に凄まじい往復ビンタが鳴った。


「 何ですか、その口の利きかたは? おまえは親に口答えをするのかい。何て生意気な小娘なの。そしたら、おまえが考えている淫らな行為とは一体、どんなことなんだい? ええ」

「 ・・・・・・・・ 」

「 わたしの考えとは随分、ギャップがあるようだけどね。まあ、それもこれも時代が違うんだから仕方がないけどね。でも、いまどきの若い娘たちに合わせるつもりは毛頭ないんだよ。とにかく、おまえはたっぷりとお仕置きされるんだ。すぐにわたしの部屋に行きなさい!」

「 ああ、お母さま! それだけは許して。お仕置きはここでなさってください。だって・・だって、お母さまの部屋なんて・・ミシェルの部屋が隣なのに・・あぁ〜ん、そんなのいやです」

「 これ以上、怒らせると承知しないよ。恥ずかしいのかい? でもね、おまえはもっと恥ずかしいことをしたんだよ。ぐずぐずしないで早く行くんだ!」

ソフィ−はこれ以上、逆らえなかった。ただでさえ、継母の感情は沸騰している。これより怒らせると鞭を使われるかも知れないからだ。過去に何度か鞭で打たれたが、あの激しい苦痛は生涯、忘れられないものだった。

ソフィ−はうなだれて継母の部屋に向かうしかなかった。





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