巴里の憂鬱・第七章 継母の謀略 |
それ以来、継母はソフィ−をお仕置きするときには必ずミシェルを立ち会わせた。しかし、ミシェルはそれによって、ますます母親を恐れるようになり、継姉のソフィ−のほうに身を寄せるようになってしまった。また、ガラスの事件がよほどショックだったミシェルは姉を思いやるようになったのだ。 そして、こんな愚かな保護者のもとで、ふたりはお互いに慰めあいながら仲の良い模範的な姉弟となっていた。 ソフィ−はいつしかアルバ−トとの恋を忘れ、成績は元通りに良くなっていた。そしてミシェルの家庭教師代わりとなり、ときには母親代わりともなっていた。そんな中、ミシェルはよく勉強する、優しい子供に成長していった。 母親は自分の思想をミシェルに押しつけて教育しようとしたが、彼はそれを嫌がっていた。なぜなら母親が口にするのは、帝国主義者は滅びるだとか、ヒトラ−やムッソリ−ニの悪口ばかりだったのだ。こんな小さな子供に敵愾心や愛国心を植え付けさせて一体、何になろう。道徳感情の欠片もない大人に子供が付いてくるはずがなかった。 新しい年が明けた。ロシアでは「冬将軍」の到来により、ドイツ軍はソ連軍の猛反撃に遭い、今やナチスの敗北は決定的となっていた。一方、パリの市民はドイツ軍の敗退を嘲笑しながら、平和な日々を楽しんでいた。 ソフィ−は十九歳になった。肉体はさらに成熟を増して、気品あふれる容姿はすっかり大人っぽくなってきた。彼女がひとたびパリの中心街にでかけると、どれだけ多くの男たちの視線を釘付けにしたことかわからない。 継母はすっかり成熟した娘にお仕置きをやめるどころか、ますます恥ずかしい仕打ちを与えるようになっていた。この変質者はありったけの夢想によって、ひとたび凌辱の名案が思い浮かぶと想像だけでは満足できず、それを実行に移さないと気が済まなかったのだ。 家からセ−ヌ川に向かって約二百メ−トルの静住街に小さな公園がある。昼間は幼い子供たちが保護者に見守られて元気よく遊んでいるのだが、夜になると、しんみりと静まりかえる「こども広場」だった。ソフィ−が十九歳の誕生日を迎えるころ、継母は土曜日の夜になると決まって、彼女をここに連れ出すようになっていた。その目的は娘をお仕置きするためだった。 今夜も継母は、流行のミニから今にも跳び出そうなソフィ−の尻を眺めながら、外出の催促をしていた。 「 ソフィ−! もう七時だ、早く仕度おし! 一週間の清算をするんだから」 「 ああ、お母さま、お仕置きは家の中でなさって。もうお外はいやです。だって誰かに見られたら」 「 馬鹿言うんじゃない! あそこは誰もいないよ。それにもし見られても、それはいいことなんだ。私は自治会の青少年教育担当になったんだよ。あの人は娘があんなに大きくなっても厳しくしつけていると評価されるだろうし、おまえだって、あの娘はよくしつけられた良家の娘さんだって、ますます評判がよくなるんだ」 「 でも、あたし、十九歳になったんです。悪いことをすれば、お母さまに叱られるのは仕方ないけど、もうお尻はいやです」 「 ソフィ−! いい加減におし! 十九なんてまだ尻の青い小娘じゃないか。それに門限を破ったおまえが悪いんだ。しかも何度も言い聞かせていることじゃないか。おまえのやっていることが子供レベルだってことをわからせてやるためにも、そういう所をたたいてやるんだ。何も恥ずかしがることなんてありゃしない。それにおまえの自慢の場所じゃないか、チャ−ムポイントを見られるのがどうしてそんなに恥ずかしいんだい?」 ソフィ−はもう口答えしなかった。いくら哀願したところで結局、耳を引っ張られて、「こども広場」に連れて行かれるのだ。ここで継母の感情を高めないようにするのが最も利口なのだ。 |
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