わたしは幼少期から変な子供だったように思う。
四歳で自慰を覚え、就学の頃には身なりのいい美少年が女の先生にお尻をひっぱたかれている光景を想像して、独りで愉しんでいた。
十二歳の頃から、その対象はしだいに美少女へと変わっていったのだが・・・。
成人してからも、やはり変態だった。
美しい女性に出会っても、親しくなろうとか、ましてや交際したいなどと思ったことは一度もなかった。
ただ遠くから見つめ、あるいは後ろから眺め、彼女を自分が想い描くストーリーの中の受刑者にして、夢の中でお仕置きしていた。
わたしの名前はオスカー・エバンス。 何の取り柄もない四十代の変態紳士だ。
わたしにとっての「性行為」とはセックスではなく、スパンキングだった。
それは、女の子のしつけというスタイルでなくては、満足が得られないように感じた。
SMクラブには幾度となく足を運んだが、演技ではつまらないし、相手は勤務時間かと思うとどうも面白くなかった。
日々、欲求不満と苛々が募っていった。
しかし、そんな内向的な人間には、それなりの楽しみ方があるのだ。
わたしは、すべてのひとが対人関係では仮面を被っていると思っていた。
そのヴェールを脱いだときこそ、真の人格が表れると信じていたのだ。
秘密の部屋を作ったのは、いまから二十年前のことだ。
わたしは、自分の部屋にゴッホの名画『アルルのダンスホール』を額縁に入れて飾っていた。
そして、それを取り外すと、隣の部屋が垣間見れるように仕掛けをしていたのだ。
さて、隣の部屋はというと、そのちょうど反対側は大きな鏡になっていた。
もちろん、そちらからは自分の姿しか見ることができない。
ひとりになったと思い込んでいる相手の動きを洞察することは、なかなか興味深かった。
何人かの男友達が、隣の部屋で宿泊したが、普段では決してみられない仕草や行動を見ることができた。
パンツの上から尻の穴を掻いたあと、その指を鼻にあてて匂いを嗅ぐ者。
また、鏡になんども熱く息を吹きかけて、女体の絵を描いたりする者。
その行動にはいろいろな癖があって、覗いていると愉快だった。
しかし、それも次第に飽きてきた。 同性ではどうも面白くなかったのだ。
なかには自慰をする者までいて、非常に不愉快だった。
ところが、他人の家まで来て、このような愚行を働いた事実を知りながら、それを責めるわけにもいかず歯痒かった。
ローラと出会ったのは、それから暫く経ってからのことだ。
当時、まだ若かったわたしは、よくワシントンに赴いて反戦デモに参加していた。
そして、活動を終えたあとの帰路で、かならず寄っていく「マドレーヌ」という名の喫茶店があった。
そこで、ウエイトレスをしていたのがローラだった。
しかし、それにしてはまだ若すぎるような気がした。
胸や尻はもう十分に女らしく、膨らんでいるようにみえたが・・・顔のほうがまだあどけなく感じたのだ。
ローラは、ほんとうに美しい女の子だった。
わたしは、少女の趣味はまったくないと思い込んでいたが、彼女と出会ってから、決してそうではないことがわかった。
顔と肉体の成熟がアンバランスで、それがよりいっそう妖しい魅力を漂わせていた。
ある雨の日のこと。
注文した珈琲をわたしのところまで運びにきたローラが、足を滑らせてテ−ブルの上にそれを溢してしまったことがあった。
幸い少量だったので、衣服にはかからずに済んだのだが・・店の奥からマスターがとんできて、粗相をした彼女を大声で叱りつけた。
「お客さまに失礼じゃないか! 一体、何度注意したらわかるんだ!」
そう言って、娘を横抱きにすると、体の線にぴったりフィットした濃紺のジーンズの上から、ローラのお尻を力一杯にたたき始めた。
パシーン! パチーン! パァーン! パァーン! パチーン! パシーン!
「あぁ〜ん、いたぁ〜い、ごめんなさ〜い。もう二度としません」
「その台詞は、もう聞き飽きたんだよ。まったく始末に負えない娘だ!」
パシーン! パチーン! パァーン! パァーン! パチーン! パシーン!
ローラは、しなやかな脚をバタバタさせて、折檻から逃れようともがいたが、マスターの腕力の前にはまったく空しい抵抗だった。
更にしつこく、ひっぱたかれてやっと解放された。
ローラは、美しい瞳に涙をいっぱい浮かべて、両手で痛そうにお尻をさすっている。
わたしは、眼の前で起きた現実が、現実であることを悟るのにかなりの時間を要した。
あまりの突然の出来事に、まるで夢でもみているような心地だったのだ。
プレーでもなければ、マニアでもない、この現実にひどく心を打たれた。
気がつくと、わたしの「もの」は猛々しく勃起していた。それは少々、痛いくらいだった。
この出来事で、わたしは少女がまだほんの子供であると思った。
ローラは背を向けたまま、たたかれたお尻をわたしの目の前にさらして、なおもさすり続けている。
後ろから襲いかかる、わたしの粘りつくような視線にまったく無防備だった。
この日から、「マドレーヌ」に通うことが、わたしの日課になった。
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