Jeans Spanking

 The Introvert

 ローラの境遇





翌日。わたしが珈琲を注文すると、ローラは恥ずかしがる様子もなく、伝票にそれを起票していた。

暫くして、マスターがわたしのところに、昨日の粗相を詫びにやってきた。

わたしはこれを機会に、ローラのことを少し尋ねてみることにした。

「お客様、昨日は大変失礼をいたしました。まだまだ私のしつけが足りないものでして・・・」

「いえいえ、いいんですよ。・・・ところで、お嬢ちゃんはお幾つですか?」

「ああ見えて、まだ十三歳なんですよ。何せここに来て、一ヶ月しか経っておりませんので・・」

「おたくの娘さんじゃないんですか?」

「違いますよ。いえ、何も無理矢理、働かせてるわけじゃありません。あの子はちょっと不幸な境遇でしてね」

マスターの声は次第に小さくなっていった。


「実は、あの子の父親はベトナム戦争で命を落としましてね、そのうえ母親のほうも病気で亡くなってしまったんですよ」

「それはまたお気の毒なことです」

「何せ、サイゴン陥落の日に北側の銃弾にやられたとか。あともう少しで終結だったんですが・・・母親のほうもきっと、それが原因で病を患ったに違いありません」

「・・・・・・・」

「身寄りがないために、私があの娘を引き取ったんですがね。 ところがこのデフレ不況ですっかり客足が鈍りましてね、あの子の生活費を賄える余裕なんてないんですよ」

このときわたしはマスターの話が、かなり意味ありげに思えてきた。

「御覧の通り、あれだけの器量とスタイルですから、あと何年かすれば、きっといい人が見つかって、嫁いでくれるでしょうがね・・・しかし、それまで面倒をみてやれる自信がなくて、困ってるんですよ」

「じゃあ、どうなさるおつもりで?」

「実を申しますと、あの子を養女として育ててくださる方を探してるんですよ。経済的に余裕のある方なら、きっと幸福にしてくれるでしょう」

「わたしが引き取りましょうか? もちろん、あの子さえよければのお話ですが」

 マスターは目を丸くして、わたしをじっと見つめた。


「いいんですか? お客様! 子供を育てるのは大変なことですよ」

「実はわたしは独身なんですよ、マスター。いえいえ、なにも金持ちじゃありません。ただ、子供ひとりくらいなら引き取れる余裕はあります。もちろん、子育てのほうになると話は別でしょうが・・・まあ、わたしなりの躾けかたをいたしますよ」

この後半部分の言葉を発したとき、わたしの一物が急速に勢いづいてきた。


「じゃあ、早速、あの子に話をしてみます。きっと歓んでくれるでしょう」


普段は決断の鈍いわたしが、咄嗟にこのような即答をしたのは、ただ衝動に駆られたからだと思う。
それに昨日のお仕置きが、わたしをひどく刺激していたのだ。

しかし、同時にわたしは、この娘に深く同情を寄せていたことも事実だった。
強欲な覇権主義による犠牲者がここにもいたのだ。しかも、まだほんの子供だっだ。

このあと、話はとんとん拍子に進んでいった。
わたしは毎日、「マドレーヌ」に通い続け、ローラが少しでもわたしに馴染めるよう、環境作りに努力した。

ローラが、ほんとうにこの話を受け入れたのかどうかはわからなかった。
ただマスターに追い出されただけなのかも知れない。実際には拠りどころがなかった、というのが実情だったと思う。

ローラを養女として迎え入れるには、いろいろと手続きを要した。
しかし、目的に向かって一歩一歩、階段を上り詰めていくような心地で、面倒だとは思わなかった。

わたしは戦災孤児を救ってあげたいという気持と、一方でやましい気持が交錯していた。
なにしろ「マドレーヌ」に入ると、わたしはいつもローラのお尻ばかりを眺めていたのだ。

それにローラの顔立ちや体つきは、わたしが長年に渡って想い描いてきた、お仕置きされる少女のイメージにぴったりだった。

わたしは、急に周りが明るくなったような気分だった。

もともと、わたしが求めていた女性は「妻」ではなく「娘」だったのだ!



それから一ヶ月ほど経って、ローラとわたしの「親子生活」が実現した。


「さあ、ローラちゃん。今日からここがきみの部屋だよ。気に入ったかい?」

「ええ、気に入ったわ。テレビはあるし、ビデオだってあるわ、それに漫画も」

「それはよかった。でも夜になって、お化けが恐くなったら、おじさんの部屋にくるんだよ」

「あたし、お化けなんて恐くないわ。だって、そんなの作り話だもん」

「おお、そうか、よしよし。それなら安心だよ」

わたしはローラの頭を優しく撫でてやった。

つい昨日まで閑散としていた家の中に、美しい女の子がいる。
そう考えただけで、わたしの胸は異様に高鳴っていた。

その夜。
わたしは絵画を取り外し、覗き窓からローラの様子をうかがってみた。
すると、娘は美味しそうにチョコレートを舐めながら、テレビを楽しそうに眺めている。

わたしは、急に彼女がいじらしくなってきた。こんな気持ちになったのは、初めてのことだ。

そして、この日からわたしの「観察日誌」が始まった。




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