☆老紳士と娘☆

リンダの告白





翌朝、図書館に娘の姿はなかった。わたしは彼女を心配する一方で、得意の身勝手な想像力を逞しく働かせていた。

(リンダ! また門限を破ったわね、言うことを聞かない子はお尻だよ!)

(あぁ〜ん、ママ、もうお尻はいやです。だって痛くて椅子に座れなくなったら、お勉強もできないわ)

(おまえは随分、ずる賢くなったね、そんな手でお仕置きから逃げられると思ってるのかい?  さあ、早くお尻をだしなさい!)


わたしはお昼になっても、注文したランチを待ちながら、こんな想像に耽っていた。


「 おじさま、ねえ、おじさま、どうしたの?

声を掛けられてようやく我に返った。すると夢想の中の主人公が横に立っていた。


「 もう〜、おじさまったら、いくら声をかけても気づかないんだから」

「 ああ、ちょっと考えごとをしていたんだ。それに年を取ると耳が聞こえにくくなってね」

「 ごめんなさい。あたし、その辺はまだよくわからないんだもん」

「 いやいや、いいんだよ、それより昨夜は大丈夫だったかい?」

「 大丈夫じゃないわ、列車に乗り遅れちゃったの。玄関のドアを開けるとママが仁王立ちで突っ立ってたわ」

「 まあ、とにかく横に座りなさい。昼食はまだだね?」

「 はい。 ・・・あの・・実は、おじさまにいろいろ相談したいことがあるの。またご一緒してくださる?」

「 もちろんさ、わたしにできることなら、なんでもお手伝いさせてもらうよ」

わたしは嬉しかった。今日も香しい娘と一時を過ごせる。それにカウンターで横に並んでいると、成熟した美しい両腿が眩しかった。
これがもう十年、若ければ警戒されていただろう。異性として見られていない証拠だが、それはむしろ好都合だった。


「 お嬢さんは、いや、リンダちゃんは何か悩みを持っているようだね、違うかい? なに、恥ずかしがることはないんだよ、おじさんの顔をよく見て御覧。もう、こんな年寄だ。いまさら何を聞いたって驚きもしないし、話す相手もいないんだよ」

「 本当? 誰にも言わないって約束してくれる?」

「 勿論さ。こう見えても娘を育てた親でね、経験が役に立てばいいが・・・」

うそも方便だ。


「 あたし、昨日はあわてて、最後に変なことを言ってしまったわ。それに借りた本のタイトルも。・・・・もう、おじさまは、あたしの悩みをわかってるんでしょ?」

「 お仕置きのことかね、 でも・・それがどうかしたのかい?」

わたしは努めて平静を装った。

「 だって、あたし、もう十七歳なのよ。それに、この春で十八を迎えるわ。でも、ママったらいまだにわたしを子供扱いするの。昨夜もたっぷりお説教されたあと、膝の上にのせられて、いやというほどお尻をたたかれたわ」

「 ははは、どこの家の娘だって、それくらいのお仕置きはされているよ。 まあ、時代は違うが、わたしは娘が二十になるまで尻をひっぱたいたさ。でも大人になってから随分、感謝されているよ」

「 へえ〜、本当! 信じられない!」

「 リンダちゃんだけじゃないんだよ、安心おし。悩むことなんてないんだから」

「 でも・・もうこんなに大きくなってるのよ。きっとおしおきに対抗するためだわ、知らないうちにたっぷりと脂肪がのって、お肉もこんなに附いちゃったわ」

娘は左脚を組んだまま、体をねじって自分の尻を覗きこんでいた。


わたしは年甲斐もなく興奮してきた。


「 そこが体のなかで一番、肉が附いてて、痛みに鈍感なんだよ」

「 でも・・恥ずかしいんだもん。だって、いつもお尻を裸にされてたたかれるのよ、ひどいと思わない?」

「 尻を出させるのは、スカートや下着で隠れていると具合がわからないからだよ」

「 パパと同じことを言ってるわ」

「 それにね。もうひとつ重要な意味がある。しかし・・これはテーブルマナーの悪い話だからやめておこう」

「 いいえ、教えて。あたし、気にしないわ」

「 そうかい。それならいいが・・つまり、トイレの話だがね・・女性は男性と違って、大小問わず、用をたすときはスカートをまくりあげ、パンティをおろすだろ?  しかも身に着けたまま、必要な場所だけ出して、用が済めば元に戻す。 あの一連の行為は、お仕置きされるときと同じなんだ」

「 ・・・・・・??」

「 トイレは一日に一度や二度じゃない、何度もいくものだ。つまり、一連の行為が潜在意識に訴えて、お仕置きを意識下で想い出させるんだ。その一日、悪いことをしないようにね」

わたしは持ち前のでたらめな理論を披露した。

娘は美しい頬を真っ赤に染めていた。


「 おじさま、それ本当の話? そんなこと、本に書いてなかったわ」

「 本には書いてないさ、わたしの娘から聞いたんだよ。もう大人になってからだがね。ハイスクールの頃、夜おそくまでパーティで盛り上がっていたらしいのさ、たまたまトイレにいって早く帰る気持になったらしい。そのあと残っていた女の子たちは、飢えた野獣たちに強引に車に連れこまれてね、ダラスの町外れで強姦されたんだよ。あの辺はゴロツキが多いからね」

「 へえ〜、まるで深層心理学の世界みたい。おじさまの話を聞いてると、何だかすごく奥が深そうだわ」

「 こんな年寄の話が少しでも役に立てばいいが・・・」

「 ねえ、おじさま。これからも教えてくださらない? あたし、両親のしつけ方が正当化されないと、お仕置きに納得できないんです。だって、痛くて恥ずかしいのは、いつもあたしなんだもん」

「 わかったよ、ただし、お仕置きされたあとは詳しく報告してくれないか? 背景や事情がわからないと、正しい解説なんてできやしないからね」

「 わかりました。ちょっと恥ずかしいけど、詳しく報告するわ」

「 じゃあ、これからも年寄に付きあってくれるかい?」

「 いやだわ、おじさま。あたしからお願いしてることなのよ。おじさまから得るものは多そうだけど、あたしから得るものは何もないんだから」

「 そうかな? 知識や経験より、もっと大事なものを得ているよ」


「 ねえ、おじさま。もうひとつだけ聞いていい?」

「 何でも聞きなさい。おじさんが答えれることなら・・」

「 あのね・・もし、あたしがおじさまの孫娘だったら、悪いことをしたとき、おじさまはあたしのお尻をひっぱたく?」

「 もちろんさ、おじさんはこう見えても厳しいんだよ。いくら泣いても許してあげないよ」

発育しきった肉体とは対照的に、まだ、なんともかわいらしい質問だった。

娘は暫く、美しい大きな瞳でわたしを睨みつけていた。

しかし、次の瞬間、いきなり笑い出した。青春が溢れるばかりの明るく、澄んだ笑いだった。




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