Roman Books |
抜粋 |
【パール傑作選 U】 作者不詳 足利光彦・訳編 昭和54年発行 |
(原題 The Pearl) |
私はその日一日じゅう馬に乗って付近の山野を駆けまわった。そして夕方城に戻ってある部屋のまえを通ると、なかから人のささやきあう声が聞こえた。聞き耳を立てると、どうも女たちのだれかが何人かの男と話をしているような感じだった。 私がその部屋のドアをそっと開いてなかを窺うと、なんと、カロリーヌとセレスティーヌとロザリーとローラの四人が、私が城の雑役をさせるために雇った四人の武骨な田舎育ちの若者たちといっしょにいるのが目にはいった。 そのときの私の驚きはひとかたではなかった。 八人は八人とも床の上に横たわっていた。女たちは腰のあたりまで裾をまくり上げ、男たちはズボンのまえからそれぞれの武器を出して女たちにもてあそばさせていた。その武器は明らかにたったいまひと仕事すませたばかりで、女たちはそのうつ向きがちの武器を甦らせようと懸命になっているのだった。 私は彼らのだれの目にも触れずに顔をひっこめると音のしないようにドアを閉じた。罪を犯した連中にどんな罰を与えるか、私はゆっくり考えねばならなかった。 (中略) 私はわざと野蛮なしかめっ面をすると、四人の女たちに向かって、卑しい男たちの抱擁に身を委ねて自からを汚した罪を責め罵った。 女たちはそんな覚えはないと言い、頑強に身の潔白を主張した。 私は聾唖の男たちに女たちの衣服を剥ぐように命じ、細い乗馬用の鞭をとりだして、セレスティーヌの裸のお尻をそれで打ち叩いた。打ち叩くといってもごく軽い叩き方で、そのお尻に美しい赤みみずばれができて、それが本来のアラバスターのような肌の白さとほどよい対照をなす程度に打ちすえただけだった。それでも四人はすっかり恐れいって、私のまえに身を投げ出してひざまずくと自分たちの過ちを認めた。 私は四人に向かって、さらに厳しい罰を与えるから、おとなしくその罰を受けるようにと言いわたした。 |
maid 【快楽の生贄たち】 作者不詳 行方未知・訳 昭和54年発行 |
(原題 A Man with a Maid) |
やがてアリスが再び口を開いた。 「ねえ、ジャック、わたしを責めるのがほんとうに喜びを与えるの?」 どちらかといえば楽しげに訊ねた。そして返事を待つ間もなく言い添える。 「今朝ね、小間使いにひどく腹がたったの。彼女のお尻をきびしく叩いたら、きっと喜びを感じたかもしれないわね。その時の喜びって、復讐を果たしたことから来るのかしら、それとも残酷であることから生じるのかしら?」 「もちろん、残酷なことからさ」 わたしは答える。 「罰を加えるってのは、だいたいにおいて喜びをもたらすし、その背後には自身が腹いせの復讐を行なっているっていう感じがつきまとっている。他の例を掲げてみたらわかるだろう − きみたち女性は、ひどく意地の悪い皮肉を実に上品なやり口で互いに言い合って喜んでいる癖があるだろう。なぜだと思うかい? けっして復讐や腹いせのためではない、急所を深く突いてやりたい、その一撃によって得られる満足感があるからなんだよ。もしかりに、今朝小間使いの横面をきみが張ったとしよう、他の喜びは何もないだろうけど、確かに腹いせの復讐は果たせて満足したはずだ。だけどこれも仮定だが、もしぼくがその場に居合わせ、きみが小間使いのお尻を叩く間、ぼくが彼女を圧さえつけていたとしたら、きみの喜びは罰を加えるということだけから生じてくるはずだよ。ぼくの言ってることがわかるかい?」 「ええ、よくわかるわ」 そう答えたアリスは、ついで茶目気たっぷりにつけ加えた。 「あなたが居合わせてくれたらよかったのにね、ジャック! そしたら小間使いには大いに効き目があったのに!」 「時々不思議に思うんだけど、なぜ彼女を雇いつづけているの」 わたしは考えこむ振りして言ってみた。 「彼女って、こましゃくれたおてんばな娘なんだろう。それにときには怒らせるようなこともしでかすし。ええと − なんて名前だっけ?」 「ファニーよ」 「ああ、そうだったね、もちろんー 美しきファニーの行儀の問題だな。彼女ってたしかに美しい、身体つきのいい娘だったね。それにしても、ねえアリス、お尻を叩きたくても、簡単に手助けしてくれる助手がなかなか見つからないだろう。考えてみると、あの娘はきみだけでうまく扱いきれるしろものでないし、下手をするときみ自身がお尻を打たれるはめになるよ!」 アリスは笑った。 「そうね、ファニーは完璧な小間使いだし、ほんとうの秘蔵っ子だわ。そうでなければずっと雇っておかないもの ー おっしゃるように、わたしには荷が勝ってるわ。頑強な身体つきだし、気概があるけれど、躾けが足りないのよ」 「いつか午後ここに連れてくればいいじゃないか。そしたらふたりでみっちり躾けられるよ!」 一見無頓着に、だが内心では懸念をうまく包み隠して提案してみた。 サディズムへの誘惑を単刀直入に口にするわけにはいかないのだ。 (中略) そうしている間も、わたしは忙しげにファニーを調べていた。背の高い、細身であるが骨格のがっしりした、きわめて発育のよい肢体の、まぎれもなき美少女であった。心もち上に反った鼻、黒く輝く瞳がその顔に活発な表情を与え、特に気ままな所作がいっそうそれを強調している。黒い髪とその深い色合いは、激しやすい、情熱的な気質を暗示していた。アリスのおしとやかな態度から考えると、ふたりは必ずしも、しっくり合わないだろうことは容易に理解できた。 (中略) 「いつだったか、きみが手放したくないある小間使いの完璧さについて話してたことがあったね」 (ファニーは満足気に微笑した) 「だけど、その娘の意地の悪い、癇癪持ちの気質には、我慢に限度があるって」 (ファニーは今度は怒りの表情を見せ始めた) 「すると誰かが教えてくれただろう、そんな小間使いはお尻をぶってやるべきだって」 (ファニーは軽蔑したような態度を装っていた) 「もしきみ自身でそれができないんだったら、誰かに替わってやってもらうべきだという話だったね」 (ファニーはことここにいたって、わたしをねめつけていた) 「それで、ここにいるファニーが問題の若い娘ということかい?」 |
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