ベビ−先生というのは言うまでもなくニックネ−ムだ。彼の名前はウィリス。二十八歳の男性だ。 成長ホルモンの分泌が異常で七歳のときに肉体の成長が止まってしまったらしい。声の音色も子供のままだ。 顔は多少ひねているものの、よく注意してみないとほんとうの子供に見間違えてしまう。
しかし、彼は頭のほうは優れていた。 米国コロンビア大学を首席で卒業した秀才だった。それに知識や学力だけなく、まだ若年ながら世故に長けていた。
娘の名前はキャロル。もうすぐ十九歳になる女の子だ。快活でお茶目だが、お色気のほうも全身にたっぷりと備わっている。
わたしの妻は娘の住むブラウン家で、つい先日まで家政婦をしていた。20年近くも勤めあげたが、娘が念願の大学に合格して手もかからなくなってきた、という理由でお役御免になったのだ。
娘の母親はメアリ−という。しつけがきわめて厳しく、キャロルは幼い頃からよく母親にお仕置きをされたものだった。 しかし、それはお行儀やモラルの世界に限られていた。なぜなら母親は自分が無学だったこともあって、お勉強のことになると娘のしつけに自信が持てなかったらしい。
一方で母親は、娘がまだ小さいころから彼女を立派な大学に進学させたいという期待を抱いていた。 経済的な理由で自分が成就できなかった学業をせめて子供には与えてやりたかったのだ。
ところがキャロルは、そんな親心に反して勉強するのが嫌いだった。体のほうは早熟ですくすくと育っていったが、学力のほうは2学年も下のレベルだと学校の先生から告げられていた。
そんなとき、メアリ−はウィリスの存在を知った。
地方新聞に彼の経歴とその秀才ぶりが掲載されたからだ。そして娘には内緒で、ひそかに彼を家庭教師として迎え入れる準備をすすめていた。
もともと彼女は女の家庭教師を好まなかった。学生時代にあまりいい思い出がないらしい。また男だと警戒心を抱いてしまう。
それは娘のキャロルが美しく、よく発育していて、まだ十二歳だというのにとても色っぽい肢体をしていたからだ。 もし間違いでもあれば大変なことになる。
その点でウィリスなら安心だと思った。頭脳明晰なうえに余計な心配をしなくても済むと考えたのだ。
ここで6年前のブラウン家の様子を覗いてみようと思う。
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