Lure ・ 第三章
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それ以来、ケイトは寝室に忍び込むことはなかった。大人の雑誌に興味がなくなったという訳ではない。ベッドの下に目をやることさえ出来なかったのだ。あんなに恥ずかしいポ−ズでお尻をたたかれては、二度と苦い過去を思い出したくなかった。 その夜、メアリ−は夫に昼間のお仕置きの報告をしていた。 「 やっぱりそうだったのか、しかし、もう忍び込まんとは限らんぞ」 「 いえいえ、大丈夫ですよ、あんなお仕置きをされたんだから、すっかり懲りたでしょうよ」 「 ところで、包装紙の中には何を入れていたんだ?」 「 新しい参考書ですよ、開けさせて、びっくりさせてやるつもりだったんだけど。いまがお仕置きには絶好のタイミングだと思ってね」 「 しかし、何もベッドの下にもぐりこませたまま、お仕置きしなくてもいいじゃないか?」 「 あなた、わかってないのね、いたずらが見つかった現場で、そのままお仕置きしてやるのが、一番効果的なのよ。これほどお仕置きされている理由をわからせてやる方法はないんですから」 「 ほう、そういうものか、それにしても破廉恥なポ−ズはいただけんな」 「 親の前だけ、お行儀よく振舞って、隠しているつもりでも、陰でしているいたずらは、全部ばれるってことを教えてやったのよ」 「 なるほど、頭隠して尻隠さずか、これは面白い」 「 あなた、感心している場合じゃありませんよ、次の罠をしかけるんだから」 「 おまえ、また何かやろうとしているのかい?」
「 なんだと、ケイトが煙草を吸ってるって? 証拠でもあるのかい?」 「 証拠はありませんわ、でも部屋の匂いでわかるんです。間違いありません」 「 おまえは嗅覚がすぐれているからな、昔はそれでよく疑われたもんだよ」 「 ひとを犬のように言わないでください。それにあなたの浮気なんて興味ありませんわ、それより協力してくれるの? どうなの?」 「 わかった、するよ。しかし、すでに吸っていようがいまいが、親が喫煙を奨めているような気がしてならんな、どうも君のやり方には賛同しかねるがね・・・まあ、今度だけは手を貸すが」 「 できるだけお洒落なパッケ−ジのものをお願いしますよ、それと国産品は絶対だめですからね、好奇心をそそらせ、誘惑を刺激するんだから」 「 わかったよ。今、大口物件の受注でフランスに出張している同僚がいるんだ。そいつに無理を頼んで買ってきてもらおう」
ジョ−ジは娘の部屋の前に立っていた。娘の部屋に入るのは実に久しぶりだった。 (蒸し暑い真夏のことだ、もし下着のままだったら・・) 年頃の娘をもつ父親は不安でならなかった。そしてドアをノックするまでにかなりの時間がかかった。 コン! コン! 「 は〜い」 「 お父さんだよ、入ってもいいかね? おまえに見せたいものがあるんだ」 ドアが開かれ、娘の姿を見た父親はホッとした。それでも、タンクトップに短いショ−トパンツだ。いささか、目のやり場に困りながら、パリのファッション雑誌を娘に手渡してやった。 「 職場の同僚がバリで買ってきてくれたんだよ。お母さんは見ての通りの中年太りだ。こんなもの見たって役に立たない。 「 うわぁ〜、あたし、前からずぅ〜と興味があったのよ、有難う、大好きなお父さま」 娘は父親に抱きついて、頬にキスをした。 「 お、おい、やめなさい、これ、お母さんに見られたら大変だよ」 父親は成長した娘に抱きつかれ、すっかり照れていた。しかし、ここで気を緩めてはいけないのだ。 「 勉強のじゃまだったかな? わたしは明日も仕事だから、もう眠るよ」 そう言って、ジョ−ジは足早に部屋を出た。そのとき、テ−ブルの上に煙草を置き忘れたふりをして。 煙草の残数は数えてある。娘の部屋で1本吸って、残りは15本だ。今夜中に娘がそれを持ってきてくれることを願っていた。しかし、まだ気付いていないかも知れない。とにかく明朝にはケリがつく話だ。 |
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