Big Daddy

娘の教育方針





「トレイシー!」

「・・・・・・」

「トレイシー! 早く、起きなさい! いま何時だと思ってるんだ!」

ジェームズは癇癪をおこした。11時半を過ぎても娘は部屋で眠っている。昨夜の帰宅は午前様だった。
ビジネスで多忙をきわめるなか、朝食の用意までしてやっているのに、娘のトレイシーはまだ夢の中だ。
もうすぐランチタイムを迎えようとしている。


(まったく、始末に負えないやつだ。今日こそはうんと説教してやる!)

怒った父親は、大きな足音を立てて階段を駆け上った。


コン! コン!


「・・・・・・」

「おい! まだ眠っているのか? ・・・は、入るぞ !」

ジェームズはいささか躊躇しながら、思い切って部屋のドアを開けた。


(!!!!!)


真夏とはいえ、娘は生まれたままの姿で眠っていた。
すっかり成熟した裸の尻をこちらに向けて、長々と伸びた美しい両脚を無防備に曝している。


ジェームズはあわててドアを閉めた。

いつもそうだった。娘のいないところでは腹が立って仕方がないのだ。
しかし、美しく成長した娘を目の前にすると、つい厳しくする勇気がなくなってしまう。
まして、エロチックな裸のポーズを見せつけられては・・父親には、なす術もなかった。

「ええぃ! 糞ったれ!」

ジェームズは歯痒かった。


妻のマーティは、トレイシーが十二歳のとき、病気でこの世を去った。

ジェームズは悲嘆に明け暮れるなか、娘のトレイシーには、それまで以上に愛情を注いだ。
幼くして母親を亡くした少女の気持は、自分よりも遥かにつらいと分かっていたからだ。

しかし、父親の過度の愛情は奔放で、我が儘な娘を作る結果となってしまった。

(今のうちに何とか手を打たねば・・・)


ジェームズは仕度を済ませると玄関を出た。今日は午後からの出勤だった。

せめて半日でも、娘とのコミュニケーションを持つ機会だったが、今朝も顔を合わせることさえ出来なかった。


列車の中は婦人たちで溢れていた。ヒューストンで予定されているカーペンターズのコンサートに向かう彼らのファンのようだ。

(亭主が働いている最中、まったく暢気なやつらだ!)

ジェームズは不機嫌だった。
そのとき、右隣にいたふたりの婦人たちの会話がジェームズの関心を強く引き寄せた。


「うちの娘も手に負えなくてね。無断外泊するわ、留守中に彼氏を引っ張り込むわ・・」

「あらあら、奥様も大変ですわね、一度、スクールカウンセラーに相談なさったら?」

「あれは生徒だけがカウンセリングの対象じゃないの?」

「いえいえ、親でもできますのよ。うちも相談してみたんだけど、随分、参考になりましたわ」


(そうか! そういう手があったのか! 一度、その道のプロに相談してみよう)

ジェームズの心は、もう週末の休日に傾いていた。


その翌週の日曜日。
ジェームズは娘が通うボーモント・ハイスクールを訪ねた。
電話で予約を取っていたが、カウンセラーのヘレン女史はわざわざゲートで出迎えてくれた。

牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡をかけた、一見して厳格そうな女だ。


「初めまして。わたしはトレイシーの父親でジェームズと申します。娘がいつもお世話になっております」

「わたしは当校のカウンセリングを専任しているヘレンです。どうぞお坐りになってください」



「お電話でだいたいお聞きしましたが、娘さんの素行でお悩みだそうですね?」

「はい。あの子が十二歳のとき、妻が病死しましてね、それで甘やかした結果が今日です」

「なるほど。ところでトレイシーさんは学校で体罰を受けたことがありませんね?」

「ええ。入学時に同意いたしておりません」

「では早速、手続をお取りください」

「はい。わかりました」


ジェームズは娘を可哀相に思ったが、今日はカウンセラーのアドバイスに何もかも委ねようと心に決めていた。


「そもそも保護者の同意がなければ体罰を執行できないなんて、まったく手緩い時代になったものですわ」

「はぁ・・・」

「ところで、学校の教育だけでは不十分です。家庭でも厳しいお仕置きが必要です」

「お仕置き?」

「はい。悪いことをしたら、あなたの手でうんとこさ、娘さんのお尻をおぶちなさいまし」

「お、お尻をですか!」

「そうです。頭や頬をたたいてはいけません。お尻を裸にしてうんと折檻なさい」

「し、しかし娘はもう十七歳です。それにあの子はもともと早熟でして・・ご存知のとおり、今ではすっかり成熟した体になっておりますが・・」

「構いません。いくらお尻が大きくなっても、しつけには関係ございません」

「・・・・・・」

「子供はね、中味が伴わないまま、体のほうが先に大きくなるんですよ。大人の縫ぐるみを被った小さな子供とお思いなさいまし」

「わかりました。そ、それにしても・・尻を裸にして、男の手でたたくというのはどうも・・」


ジェームズはいささか呆れ返っていた。


「奥様がいたなら、そのほうがいいでしょう。しかし、現実にはあなたしかいないのです。ほかに誰も娘さんをしつけられるお方はいないのです」

「・・・・・・」

「大変、失礼ですが、最近は子供に嫌われることを恐れる親が増えています。特に父親の権威はすっかり地に落ちてしまいました。しかし、このままではお嬢さんは駄目になってしまいます」

「おっしゃる通りです」

「ご心配をおかけするようなことを敢えて申しあげます。実は最近、お嬢さまは教職員の間でも評判が悪くなっているようです」

「ほ、本当ですか?」

「宿題はしないわ、仮病を使って早退するわ、そのほかにも沢山あります。ここで手を打たないと駄目ですよ。いいえ、まだ手遅れではありません」

「そう願いたいものです」

「わたしの言う通りにしてください。それならば心配御無用。そして必要ならいつでもお電話ください。わたしは二十四時間態勢です。自宅の電話番号も教えておきましょう」


二時間におよぶカウンセリングを受けて、ジェームズはハイスクールを後にした。

まったく予想外の展開にジェームズの心は揺れていた。
それにしても自宅の電話まで教えるとは、熱心なカウンセラーだ。

もうここまできては、すべてベテラン女史のアドバイスに従うしかないようだ。


(しかし、大きくなった娘にお仕置きとは呆れたもんだ)

(あの子のお尻を裸にしてひっぱたくなんて・・俺にそんなことができようか?)


ジェームズの心は不安でいっぱいだった。



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