Big Daddy
青春の影 |
ジェームズはご機嫌だった。
「おやおや、ジェームズさん、あなたは甘いですわ」 「え! 甘い・・ と申しますと?」 「確かにあなたの前ではよくなったかも知れません。でも、それだけで気を緩めてはいけません」 「先生、お言葉ですが、わたしは娘を信用してあげたいのです。それに四六時中、娘を監視するなんて不可能です」 「ごもっともです。あなたのお気持はよくわかります。どうでしょう? ここでひとつ、お芝居をなさっては?」 「お芝居?」 「そうです」
「そう願いたいものです。でも最近の子供たちは、私たちには想像もつかないほど、性に対する自制心が欠如しております。是非、一度お試しになっては如何でしょう?」 「わかりました。あまり気が進みませんがね。しかし、もし間違いでもあれば娘の将来に関わりますから」
「ニューヨーク? あたしも行きたいわ。でも、夏休みの宿題が残っているから、それどころじゃないわ」 「おお、そうか、よしよし、いい子だ。その調子でしっかり勉強するんだよ」 「はい、パパ。ちゃんとお土産を買ってきてね」 「もちろんさ。ただし、お土産はいい子にしかあげないよ。悪い子には・・」 「あぁ〜ん、それ以上は言わないで」
二階の窓では薄いカーテンを隔てて、娘が父親の出て行く様子を眺めている。 ジェームズは100メートルほど歩いたところで交差点の手前を左に曲がった。そして、次の信号でまた左に曲がると、そのまま真っ直ぐに進んだ。つまり、自宅のすぐ隣の通りを家に向かって戻ってくることになる。 ビジネスホテルの予約は取っていた。客室の二階の窓から自宅の玄関までの距離は遠くなかった。 しかし、何時間たっても自宅の様子に変化は見られない。 まったく気の遠くなるような退屈な時間が過ぎていった。 「畜生!」 ジェームズは暑さに加えて、貴重な休日を台無しにされたとばかり、激しく憤っていた。 そして目が覚めた頃には、もう日が暮れていて、外の景色もすっかり暗くなっていた。 窓から双眼鏡で覗いてみると、自宅の前に真っ赤な車が停められているではないか! ジェームズは慌てて、ヘレン先生に電話をかけた。
「ブルック? うちの娘が交際している子はジャックですよ」 「ジャックとは最近、別れたようです。あの子なら、私も安心なのですが・・今度のブルック君は、あまりお嬢さんには相応しくありません。もっと早くお知らせすればよかったのですが、カウンセラーの立場としてはいろいろ難しいのです。どうぞご理解ください」 「わかりました。とにかく、今からその小僧をとっちめてやる!」 「ああ! ジェームズさん、あまり感情的にならないで、どうか慎重に行動なさって・・」
しかし・・階段の中央まできて足が止ってしまった。そして絶望的な思いに打ちひしがれた。
そう思ったジェームズは意を決して、娘の部屋の前に立った。
突然、部屋中に大きな怒号が鳴り響いた。
父親は今にも殴りかからんばかりに少年のもとに迫った。それは殺意を匂わせるような、物凄い表情だった。
「これが何もしていないと言うのか!」 「は、はい・・あの・・どうか・・どうか、信じてください」 「何を信じるんだ!」 「あ、あの、その・・つ・・つまり・・入れてないんです」 「入れてないだと? 何を入れてないんだ! どこに入れてないんだ! 言葉に気をつけろ! この馬鹿野郎!」
父親は少年を玄関の外にたたき出した。 その時、娘が咄嗟に彼の衣服を二階の窓から放り投げたので、少年は何とか服だけは身に着けることができた。 ジェームズはブルックの車が消え去るまで、しっかり見届けると玄関の鍵を締めた。 |
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